持続可能な開発のあり方を論ずるためには、開発の環境への影響が不確実にしか予測し得ないという要因を、是非とも考慮せねばならない。
本論においては、開発のもたらす環境への影響が不確実であることを明示的に考慮しつつ、持続可能な開発の方途を検討したい。
2不確実性下における持続可能な開発経済開発には、何らかの環境破壊が伴う。
したがって、開発のフロー量をyとおけばyは、環境のストック量Zの時間微分dx/dtに等しくなるはずである。
しかし、環境ストックには、自らを再生産する能力があり、再生産された環境のフロー量j(x)と開発のフロー量yとの差が、環境ストックの時間微分と等しくなるのである。
すなわち、環境ストックの時間微分はと表わされる。
このj(x)は、環境による環境の再生産能力を規定する、環境再生産関数であり、という性質をもう。
すなわち、環境ストックの限界生産性は、正であり、かつ、逓滅的である。
しかし、前節に述べたように、開発や、さらには環境の再生産が、環境ストックの時間変化にいかなる影響を及ぼすかは、確実には知り得ない。
環境ストックの時間微分を規定するシステムは、確定的ではあり得ないのである。
そこで、本論においては、環境ストックの時間変化の不確定性を表現するために、環境ストックの時間変化を、以下のような確率微分方程式としてとらえることにする。
ここにwは、ウィーナ一過程であり、σ(x)は、確率過程(の標準偏差の大きさを表わす関数である。
すなわち、本論においては、環境ストックの時間変化を、環境の再生産フローと開発フローの差によって表わされる確定的な部分と、ウィーナ一過程の時間差分によって表わされる確率的な部分の、和としてとらえるのである。
環境ストックの時間変化の不確定性が、後者の確率部分によって表現されていることはいうまでもない。
ちなみに、ウィーナ一過程とは、その時間差分w(t+ムt)w(t)が、期待値0、分散tの正規分布に、それぞれ独立に従う、時間について連続な確率過程のことである。
ただし、ウィーナー過程は、時間について微分可能ではないので、(のような表現が用いられる。
これより、環境ストックの時間変化は、期待値分散の正規分布に従う確率変数となっていることがわかる。
σ(x)が、環境ストックの時間変化の不確定性の程度を表わしていることは明らかであろう。
ところで、経済開発は、何らかの効用が得られるからこそ遂行される。
今、開発によって得られる効用を、u(y)とおき、これを開発効用関数と呼べば、u(y)は、u'(y)>O、uH(y)(Oという性質をもう。
すなわち、開発の限界効用は、正であり、かつ、逓減的である。
経済開発の主体は、開発による効用を最大化すべく、開発フローを選択する。
したがって、開発主体は、限界効用がu'(y)=oとなる水準まで、開発フローを拡大することになる。
この時、開発主体は、開発がもたらす環境破壊、言い換えれば、環境ストックの減少を考慮していない。
開発主体は、開発フローの拡大が、環境ストックの枯渇をもたらし、開発そのものが不可能となる事態など予想もしていないのである。
したがって、持続可能な開発を選択するためには、目的関数として現在時点における開発の効用のみを考えるのでは不十分であって、環境ストックの時間変化を考慮に入れうる目的関数を考える必要がある。
環境ストックの時間変化は、確率微分方程式(によって規定されているのであるから、これを制約条件とする目的関数は、将来のすべての時点における開発効用の割引現在価値の期待値でなければならない。
すなわち、持続可能な開発を選択しうる。
ここには開発効用の社会的割引率である。
以上の考察により、不確実性下において持続可能な開発を選択する問題は、環境ストックについての確率微分方程式(を制約条件として、社会的目的関数(を最大化する開発フローを選択する、確率微分方程式制約下での時間積分期待値最大化問題として定式化される。
すなわち、不確実性下における持続可能な開発問題は定式化されるのである。
目的関数(の最大値をV(x)とおき、これを評価関数と呼ぶことにしよう。
すなわち、である。
これにベルマンの最適原理を適用すれば、が成立する。
これに確率過程による微分に関する基本定理である伊藤の定理を適用して、テイラー展開すれば、O=maxs[u(y)dtVdt+V'dx+(1/VH(dxi1が帰結する。
これに制約条件(を代入すると、O=maxs[u(y)dtVdt+(j(x)y)V'dtが導かれる。
この(が、ストカスティック・ダイナミック・プログラミングにおけるベルマンの方程式である。
ベルマンの方程式(より、最適解fは、限界条件u'(y)=V'(を満たし、かつ、評価関数Vについての二階常微分方程式(σ(x)2/VH+(j(x)y)V'V+u(y)=O(を満たすことは明らかであろう。
(と(を同時に解くことにより、最適解は原理的に求めうる。
しかし(と(を一般的に解くことはきわめて困難で、ある。
そこで、ここでは、関数形を特定することにより、最適解の例示を求めてみたい。
まず、環境再生産関数j(x)と、標準偏差関数σ(x)は、線形であると仮定する。
すなわち、さらに、開発効用関数u(y)は、対数線形であると仮定する。
すなわち、U(y)=yb、1>b>Oである。
bは定数であり、1bは相対的危険回避度と呼ばれる。
ちなみに、yuγu'=1bとなっている。
したがって、試行解(は、係数aが(を満たす限りにおいて、確かに必要条件((の解となっている。
ちなみに、((の解としての評価関数は、V(x)=[(bμ+b(1b)σ2//(1b)](1b)Xb(と表わされる。
以上の結果として、開発フローの最適解fは、現在(0)時点において存在している環境ストック判が与えられるならば、(7)と(より、y=[(bμ+b(1b)σ2//(1b)]xo(であることが明らかとなる。
この(こそ、不確実性下において持続可能な開発を達成しうる最適開発政策にほかならない。
最適開発政策fは、きわめて興味深い性質をもっている。
まず、現存する環境ストックXoの最適開発フローに対する効果は、であるから、現存する環境ストックが大きければ大きいほど、最適開発フローは拡大しうる。
これは、常識的な結果である。
続いて、環境ストックの限界生産性μの効果は、δy/δ1μ=[b/(1b)1xo(Oであるから、環境ストックの限界生産性の上昇は、最適開発フローの抑制を帰結する。
これは、一見意外な結果である。
環境の再生産力が高い時は、あまり開発するな、というわけで、ある。
この結果は、環境ストックの限界生産性の上昇が、現在時点における開発フローの抑制(環境ストックの蓄積)のもたらす、将来時点、における環境ストックの増大をより効果的にすることにより、将来時点における開発フローのより大きな拡大を可能にするからである。
言い換えれば、環境ストックの限界生産性の上昇は、環境ストックの蓄積(投資)を拡大する効果をもっているのである。
さらに、将来時点における環境ストックの不確実性の程度σ2の効果は、3y/δa2=[b/21xo>Oであるから、将来時点における環境ストックの不確実性の増大は、最適開発フローの拡大を帰結する。
これは、かなり意外な結果である。
将来の環境に対する科学的知見が不確かであればあるほど、現在の開発をますます進めるべきだ、というわけで、ある。
この結果は、将来の環境ストックの不確実性の増大あるいは将来の環境についての無知の増大が、不確実な効用しかもたらさない将来の開発に対して、確実な効用をもたらす現在の開発を、より高く選好させるからにほかならない。
言い換えれば、期待値が同じならば、危険の大きい将来の開発よりも、安全確実な現在の開発を選択する、危険回避的な選好が、このような結果を導いたのである。
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